番茶も出花と言うけれど 参

我ながら珍しく兄貴風を吹かせて風の字を諌めた
ものの、治まりはすまいと踏んでいた。
あちきだって元は色子だ。若衆上がりで間もない
奴の心根を多少は読める。第壱兄さんは学問の
面倒は見てもその他は丸っきり押し付けだった
からねぇ。
月を風呂に入れて、体を洗ってやってたのが
風だったって、店の連中は皆知ってるさ。
…それが仇になったのかねぇ…まさかあちきだって
初耳だよ。念者が若衆に抱かれたい。それもその
若衆が実の弟。何の因果だってのかね、お父っつ
あん、おっ母さん。                   
鶯が仏壇の前に端座して、線香を点して溜息を
吐いていると、色子が障子越しに声を掛ける。
「女将さん、伯斎先生がお見えです」
「お通ししとくれ。それから、暫くの間人払いだ。
店の事は京奴に相談しておくれな」
「はい」

「白湯で、よござんすか?」
「かまわん。すまねぇな、押しかけてよ」
「此方こそ。風が随分お手間掛けた様で」
「…判るか」
「蛇の道は、でござんしょう?先生の弟分にして
戴いて以来、めっきり逞しくなったと思ったら、
とんだ岡惚れをしちまってる」
火鉢の灰を手持ち無沙汰にか掻き回す。その口調は
怒りと言うよりも呆れと愛情ない交ぜと言った
感じだ。
「月坊が傷付かねぇか。お前さんの心配は
それだろ?」
「色子上がりが何をほざくと笑って下さって結構
ですよ。あちきだって人の兄。見ないで済ませる
道があるなら見せたかぁ無いですよ」
「風も同じだよ。だから俺の体で気を紛らわせた
んだ。困ったもんだな」
「無理からにでも店に放り込むべきでしたねぇ…。
でも、辛い時もあるから」
その辛い時からの知り合いだけに何も言えなく
なる。思えば鶯の初めての客が伯斎で、その縁から
風三郎の念者になったのだ。その関りの中で
華壱とも知り合ったし、月四朗とも関ったのだが、
確かに華壱の遣り方は不味かった。

「ついては相談なんだが」
「あの弐人を壱つ布団に、ですか?」
「心配するな。俺も立ち会う」
「余計心配ですよ」
「じゃあ、どうすりゃあいいってんだ?」
「月の目の前で、風を抱いておくんなさいまし」
「…正気、か?」
「まさか此処に太夫を呼ぶ訳にも行きますまい。
それに、知らぬ同志の乳繰り合いを見るよりも、
まだよござんしょ?」
鶯、否、酉弐、苦悶の選択である。 
                    (続)