硝子の聖ニコラウス

 恋仲とは言え野郎二人で過ごすクリスマスな
のだから何か彩りは欲しい、と言うのは付き合
った当初からの了解事項だった。
 だから付き合い始めた学生時代から足掛け十
五年、クリスマスの食卓には赤緑白のクリスマ
スカラーを欠かさない様にしている。アルバイ
トを始めたばかりの大貧乏な付き合い始め一年
目に湯豆腐でクリスマスカラーを演出したのも
良い思い出だ。
 え?湯豆腐じゃ白一色だろう?
 湯豆腐に付き物の薬味と言うものを忘れては
いけない。紅葉おろしの赤に葱の緑で立派にク
リスマスカラーになるじゃないか。当時の二人
には紅葉おろしと葱を買うのでさえ贅沢だった
し。
 その翌年には酒粕と白味噌で仕立てた汁に人
参と青菜を入れて過ごした。ほんの少しだけど
贅沢を味わえた気がした。そのパターンはその
後二回続き、一年毎に鍋の中身は豊かになった。
 流石に共稼ぎ状態になったここ十年来では偶
の贅沢を楽しんでいる。白を二人共通の好みの
濁り酒で演出するのが定番になって片手を越え
た辺りだろうか。喉越しが良すぎて呑み過ぎる
のが玉に瑕。こればっかりは好きなんだから仕
方が無い。
 でも今年は涙を呑まざるを得ないかも知れな
い。健康診断とか、体型とかの複合理由でね。
なんだかなぁ。

 「赤は何にする?」
 「鮭、筋子、イクラ、鱈子、明太子、」
 「鮪と言う選択肢は無い?」
 「酒の誘引材料になり易いから自粛」
 「美味い茶を飲めば良いじゃない」
 「握りなり山かけなりを食って酒呑まずにい
られると思う?」
 「微妙かも」
 「植物性乳酸菌摂取と言う選択肢もあるには
ある、か」
 「キムチ、か。明太子が有りならそれも有り
だな」
 「脂肪燃焼も期待できるし」
 「緑はそれで行くとサニーレタス?」
 「あ、完璧かも。白は豆腐でしょ?」
 「贅沢豆腐で頼む」
 「そりゃあね」
 本人達は冗談めかして言ってるつもりだけど、
多分横で聞く人が居たらうんざりした気分にな
るんだろうな。
 まあ、良いか。次の買出しには少し遠出をし
て朴さんのお店まで足を延ばそう。隣のラーメ
ン屋で豚骨スープ+キムチ+葱のクリスマスカ
ラーを楽しむのも良いだろうし。
 「そうか、チャンプルーと言う手もあるのか」
 「赤にトマト使うのは無しな?」
 独り言にツッコんでくれて有難う。

 部屋の飾りに就いては特に派手にしないと言
うのが了解事項になっている。片付けも大変だ
しね。最近ではコンパクトな小洒落た品も出て
いたりするのでそちらを専ら利用している。時
にワンコインで買えたりするから財布にも優し
いし。
 今年の飾りはツリーの横で佇むサンタクロー
スの人形。掌サイズとは言え硝子製なのでそれ
なりに綺麗に見える。折り紙ツリーを枕元に置
いての夜明かしの頃を思えば随分な変化だ。
 「ああ、そういえば土産が有ったんだ」
 「ん?」
 「普段遣いにこう言うのもそろそろ良いんじ
ゃないか、と思って」
 「へぇ、なんだろ」
 それで見せられたのがビロード張りの小箱と
来たらまあそれなりに期待してしまう。反面、
野郎同士になぁ、と軽い溜息も出る。
 蓋を開けて出てきたものは…指輪ではなくカ
フスボタン。銀色の地に赤と緑の石でラインが
刻まれている結構洒落たもの。
 「これなら多分目立たんだろ」
 「まあ、嬉しいけどさ。如何言う風が吹いた
の?」
 「これからもよろしくって感じかな?」
 そう言いつつネクタイを一寸摘んでみせる。
そこで存在感を示していたのは揃いのデザイン
のタイタック。
 「セット売りじゃなくてバラ売りで偶然見つ
けてさ。これだなと閃いた」
 そして、背中から抱かれる。
 「メリークリスマス。でかい餓鬼のお守り有
難う」
 「どう致しまして。来年も精々世話焼かして
よ」
 僕の耳が、静かに噛まれた。
              (2006.11.25メールマガジンにて発表/2007.12.24再録)               作者:葡萄瓜XQO

クリスマスならではのボーナストラック、と言う事で再録を。
淡々と過ぎる日々の中で垣間見える愛情も良いものです。
年齢制限は…スレスレで無しって所ですか。
 
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