朝飯前

眼を覚ましてとりあえずぐっと伸びをする。
何も身につけていない状態の伸びって結構
好きだ。引っかかるものが何もないから本当に
伸びをしてるって感じで気持ち良くなる。
ひょいと横を見ると麟がなにやら難しい顔を
して唸ってた。手元を見るとそこには真っ赤な
紙パンツ…って、どう言う場面設定だよ。
「あーと、その、フェチだったっけ?」
「じゃ無い。好きなのは中身。好みはあるけど」
「じゃ、何やってんだよ」
「んー、美意識との葛藤」
「はえ?」
「お泊りの後の下着だからこそきちんとしたものが
欲しいなと」
「だめかな?使い捨てって」
「夜の遊び道具なら認可できるけどね。その方が
効率良いし」
そう言うと穿いてから少し破いてみせる。うん。
確かに良い光景かも。
「でもこれで家に帰るまで…いやひょっとしたら
一日過ごすというのはさ。なんか鬱陶しくない?」
「我慢できなさそう」
「だからせめてそれなりのものは欲しいなと。間に
合わせにしてもね。新品という贅沢な要求は一応
抜いとくけど」
「そこまで貧乏じゃないって」
苦笑いしながら身を返して抽斗を引き出す。励み
すぎた後でずぼらが出来る様にと箪笥をここに置き
直したのは全く正解だった。こいつの要求を見越した
訳でもないけど用意しているものは一応あったし。
「はいよ」
「へ?あ、サンk…ってこの色かよ?」
「俺にも美意識と言うかそんなものはあるの」
「相当歪んでるけどな」
「ま、フェチも一寸入ったかもな。柄にもなく」
ぶつくさ呟きつつパンツをはく麟。一寸頬を緩めて
眺めてる俺。ん、いい眺め。
「サイズ、わざと?」
「太ったんじゃねぇの?」
「筋肉がついたと言えっての」
「まあ、その辺は確かに筋トレしてるよな」
緑の丘を縁取る赤いライン。そこから延びる白い大地。
クリスマスカラーの再構成は大成功。
「別の配色を考えても面白いよな」
「想像は出来るが賛同はしない」
「サービスが付いても?」
「一寸考えさせて」
「実は用意してあったり」
「……好き者」
「褒め言葉に聞いとく」
こう言う会話をしてる俺達は中学生。随分と言えば
随分な話だ。ま、これも情報化社会の賜物って奴?
良いのか悪いのか解釈は分かれるだろうけど。
「悪趣味な色彩バランスは無しな?」
「悪趣味の解釈にもよる」
そう言う会話をしつつ海綿体を膨張させる手順を
踏んでる……のは、やはり相当擦れてるんだろうな。
両手と口を駆使して事の後の余韻に浸っている麟の
御子息様を起こして硬直させようとしてるんだから。
「きつくない?」
「味?」
「うん」
「濃い事は濃いよね。嫌いじゃないけど」
「……莫迦」
無論こちらも臨戦態勢は整っている訳で。揺らして
いるつもりは無いけど揺れてるし。麟の足で弄られ
てもいるからかなり緊迫している。湿り気だけだった
のが確実に濡れてきているのも判るし。
じゃ、そろそろ良いかな。
先ずパッケージを破いて開ける。口だけで開けられ
たら様になるんだろうけど、そこまでの実績は無い
ので指で確実に。中身の装着も指で。これも口なら
(以下自主規制)。そうこうして目の前に展開された
風景は…。
「あ、そんなに違和感がない」
「ホント?」
「まあ、この場で見る限りではだけど」
イメージ通りではあるけど、立体感を伴うとやはり
ドキドキする。白い大地にやや金色がかった草叢。
そこから屹立している赤い帯を纏った緑色の熱い柱。
模した風景の再現は多分容易いんだろうけど、体温が
伴わないと意味が無いんだよね。
「最低限の違和感はあるよな」
「人肌とは違うから」
「体温は伝わるけどな」
薄い膜越しに握り締めて、そして頬擦りする。帯と
浮き出る筋の合致を狙った訳ではないけれど、装着
してみるとこれが又誂えたみたいになぞられている
んだな。
「熱いね」
「地色が赤い方が良かったんじゃね?」
「それじゃ又設定が変っちゃうよ」
「あ、なるほどね。でもさ」
ニヤリと笑って殊更に堅くして見せる麟。
「赤地に白ならこの後が遣り易いよね。どうせ潜る
道があるんだし」
「…………莫迦」
中に何か置いてくる気かよ。こいつなら遣りかね
ないけど。
一つ溜息を吐いて道の入り口を指でなぞる。さっき
開かれていた筈なのにもう抵抗の弾力が戻っている
みたい。若干の湿り気は残っているけど。
「すげー回復力」
「お前には言われたくないなぁ」
言いながら頬擦り。我ながら何処で学習してるん
だか。でも、こう言うのもまた気持ち良い事の一環
だし。
「それだけ?」
「ゴム味って好きくないから」
言いながら麟が脱ぎ捨てた紙パンツを穿いてみる。
こう言う時に体格差があんまり無いって楽だ。麟が
破いた場所もジャストフィット。自分で該当箇所を
眺めてみてもなんかそそられるから怖い。
ゴクリ。
麟が何かを飲み込む音がしっかり聞こえる。自分が
持ちかけたゲームなのに、こう言う場合は想定して
なかった訳ね。
でも、こっちはその気になっちゃったし。クリスマスの
勢いってのもあるしさ。
「道具は、使わなきゃね」
「んだな」
そして朝日の下で第5試合、開始。


             2006.11.24脱稿/2006.12.1UP  
             葡萄瓜XQO
 
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