EARS

 ヒトとケモノビトが交わるのなんて劣情さえあれば
どうにでもなると思っていたけど、どうやらそう単純
なものでもないらしい。我が身で感じてみてしみじみ
と判った。
 一番大きな点として、ヒトのものをケモノビトの後
庭に差し入れるのは容易いが逆もそのまますんなり出
来ると言う訳ではない。ケモノビトの種族によって容
易い場合そうでない場合がどうしても出る。
 逆に言えばこの点さえ克服出来ればヒトとケモノビ
トの交わりはかなり楽に行える。心がつながっていれ
ば快感もいや増すだろう。
 ケモノビトの鬱蒼とした叢も、愛しさが高じればそ
の匂い無しではいられなくなるものだ。仮令蚤捕りに
時間を食われてしまったとしても。

 年下の情人の体をブラシで撫でる。ブラシと言って
も尋常な品ではない。叢の毛並みを揃えつつ暑苦しく
ないように刈り込む機能のついた優れものだ。
 「気持ち良い?」
 「うん。とっても。ちっとも痛くないし」
 年下とは言っても種族の故にかヱブの体躯は現時点
で僕よりやや大きい。僕の前だから自制心も寛げてい
るのだろう。半身抜いた刀の様に彼のペニスが肉鞘か
ら伸び出で、漏れ出た先走りの為にぬらりと光り始め
ていた。
 「こう言うので感じるんだ」
 「兄ちゃんのブラシ捌きが上手過ぎるんだよ。普段
なら、こんなに」
 「こんなに、何?」
 言葉を止めたので意地悪く聞き返してやる。こう言
う所だけ初心だと言うのも変な話だが、こいつの年齢
を考えると頷けない事もない。
 先月初めて自在に発情できる体にまで育ったのだか
ら、まだ気恥ずかしさもあるのだろう。そうなるまで
は僕もこいつの目の前で平気で自分を慰めたりしてい
たが、最近は誘惑も兼ねてやっている。余り嫌がるよ
うなら自粛するけど。
 「……馬鹿。なんでもな」
 言い捨てて追求を遮ろうとするので、ブラシを置い
て頭を抱え込んで唇を奪ってやる。深く差し込んだ舌
で口腔内をじっくりと愛撫して行くと、最初頑なに強
張っていた体も観念したのかゆっくりと力が抜けて行
く。
「まぁだ、慣れないか」
「兄ちゃん、上手過ぎ」
「お前が初心過ぎるの。毛繕いで一々勃ってたら、身
が持たないぞ」
 もう夜半もいい加減だから何もないだろうけど、一
応時計を見て時間の確認。一時間遅れなら、何とかな
るか。
 「今日は応急処置だからな」
 今度は軽く唇を合わせてヱブのペニスを肉鞘ごと撫
でさすり、充分な堅さに調整する。
 本当はその間にヱブに服を脱がせて欲しかったんだ
が…まあ、今日は良いか。そこまで気を回す余裕がな
さそうだし。心の中で一人ごち、とりあえずズボンと
下着を脱いで仰向けにさせたヱブの太股の上に乗る。
 「さて、次、どうしたい?」
 ゆっくりと顔を近づけながら問いかける。ペニス同
士は触れるか触れないか程度に保ちつつ。彼の叢の匂
いが少しずつ変わっているのを感じ、不覚にもそれだ
けで達きそうになってしまう。
 ヱブは決意した様な眼差しを見せると僕の首筋に腕
を回し力を加減しながら抱き寄せてきた。そして、今
度は彼の舌が僕の口腔内を這い回って蹂躙して行く。
大きくて肉厚な、ざらついた彼の舌の感触。そして、
後から追いかけて来る様に鼻腔に届く彼の息の匂い。
これでまだ前菜だというのが勿体無い程だ。
 唇を重ねている内に自由になった手は、今度は僕の
腰周りを彷徨いだす。ここ最近、少し堅くなった肉球
が尻たぶを撫でて行く。良い感触だ。
 「兄ちゃんの中、良い?」
 「ああ。濡らしで多分良いから」
 「うん」
 入れ替わる上下。そして持ち上げられる僕の下肢。
肛門の周りに感じるヱブの舌の温もりと湿り気。入り
口付近を拡げていた舌がやがてヌルリと直腸に入り込
んで、そして中を押し広げ寛げてゆく。
 ヱブに自信を持たせたいのもあってここ最近抑えな
い様にしていた声が残響を残す程に響いて、我が事な
がらビックリする。ヱブも自信を持つ前にビックリし
てしまったらしい。
 「兄ちゃん、すげぇ」
 「凄いのはお前の舌だっての。思わずイ」
 「イ……きそう?」
 言葉で逆襲されて耳が凄く熱くなる。不覚にも程が
ある。いや、攻守交替を教える良い機会、なのか?
 ニヤニヤ笑っているヱブの頭をガシガシ撫でて抱き
しめて、こっちも一言。
 「ヱブの舌でイきそうになっちまったよ。上手くな
ったよな」
 「兄ちゃんはこうしたなとか思い出しながらやって
た。ところでさ」
 「んだよ」
 「一寸甘かったんだけど、まさか兄ちゃんなんかビ」
 「ばーか」
 今度はぽんぽん軽く叩きながら。背中を叩いて安心
させる感じで。
 「中の掃除で浣腸しただけだよ」
 「あ、そう言われれば」
 「お前もする?」
 「う…遠慮しとく!」
 「………気持ちいいのに」
 「………………ホント?」
 「一瞬、強烈にだけどな」
 「そーなんだ」
 「ところでさ」
 浣腸からさっさと話を切り替える。
 「後、やるんだろ?」
 「うん。ねぇ、兄ちゃん」
 「ん?」
 「俺の上に乗って」
 「ああ。程々にしてくれな?」
 「うん。考えとく」
 そして僕は、ヱブの陰茎を肉鞘ごと握りこんだ。
 怒張しているとは言えまだ完全には勃ちきっていな
いペニス。幼い頃から見慣れたものがこんなに立派に
なったのかと一寸感慨を覚えながらゆっくりと僕の体
に収めてゆく。グリセリンとヱブの舌で緩められた直
腸はまだ細身のペニスをゆっくりと飲み込み、そして
包み込む。
 「……ッふぅ……」
 「なんか、緩い?」
 「今から締まるんだよ。つか、お前が締めさせるの!
ほら、次はどうすんだ?」
 緩いとは言っても僕の中にはしっかり異物感がある。
厚い肉の栓。ヱブの肉だ思うと愛しいものだ。その肉
栓を中心にして、膝立ちになった両脚で体を支えなが
らゆっくりと腰を回してやる。ただ快楽を享受してい
た彼の顔が、やがてジワっと汗ばんで来て歯茎が見え
る様になる。
 「にいっ、ちゃ」
 「我慢できなきゃイっちまえ。先は長いんだし」
 「う…ぅ…う」
 良いねその涙目。ヒトとケモノビトの違いを飛び越
えて一緒にイきたいってか。全くもってこの幼馴染と
来たら。出来れば僕自身がケモノビトになってこいつ
と一晩中でも攻守交替しながら繋がっていたくなる。
 「お前の場合、後の方が濃くて良いんだからさ…贅
沢言うなよな」
 体を倒して鼻面を軽く齧ってやる。舐めるよりも一
寸濃い目の愛情表現。
 「ヱブのって、勢いが強いから僕も気持ち良いんだ
よ」
 「ホント?」
 「兄ちゃんが嘘ついたことあるか?」
 「……結構いっぱい」
 「あーのーなー」
 「んでも」
 ヱブが舌を伸ばしてくる。僕はそれを軽く噛んでや
る。
 「気持ち良い事では、嘘吐きじゃない」
 「そだな」
 「兄ちゃん」
 「んだよ?」
 「……好き」
 「僕もだ。泣き虫でヘタレなヱブが好きだよ」
 一瞬絡める視線。そして僕は激しくジャンピングす
る。
 「!!!」
 腸の中に感じるヒット。そして、仰け反りと共に一
瞬訪れた浮揚感。
 そこから後はどんな言葉を交わしたのか一寸覚えが
ない。多分言葉ではなく声を交わしていたのだろう。
繋がるだけでは我慢出来ずただジャンピング。腸の中
で大きくなったヱブのペニスの充実感を味わいつつひ
たすらジャンピング。腸の中ではヱブのペニスと一緒
にヱブの体液が暴れ、隅々まで染み込んで僕を狂わせ
る。
 不意に平手打ちの様な音が響いた。
 ヱブが僕の肘を掴んで、じっと見つめてくる。
 「兄ちゃん」
 「イくか?」
 「まだ。それよりも」
 「ん?」
 「俺の中も、後で綺麗にしてよ」
 「やってみるか?」
 「兄ちゃん見てたら、したくなった」
 「………今夜は徹夜だな」
 「学校、ふければ良いじゃん」
 「お前ね」
 苦笑して見せたものの、泣く子とヱブには僕は勝て
ない訳で。
 とりあえず、きちんと絶頂を味わう事にする。体を
緩める為にも。
 ジャンピングからグラインドに切り替えてヱブのペ
ニスをじっくり締め付けてやる。先走りを発射した後
のヱブのペニスは、亀頭球もそうなんだが本体も容量
が一倍半増しで、そして熱い。今の所この感触を味わ
っているのが僕独りだと思うとゾクゾクする。
 「出そう?」
 「まだ、出したくない」
 「も少し上、いいか?」
 「俺が上じゃ、嫌?」
 懇願のまなざしに、思わず噴出す。
 「良いよ。このままゆっくりな」
 「うん」
 騎乗位からそのまま僕が下になって正常位の形をと
る。ヱブの腰を脚で挟み込んでみると満足感が増して
くるから不思議だ。下から見上げるヱブの顔つきにも
男を感じてしまう。
 「ヱブ」
 「何?兄ちゃん」
 「キス、して」
 その一言が急に照れ臭くなる。餓鬼だガキだと思っ
てたヱブが男だと気づいてしまったからだろうか。こ
の後こいつに浣腸をして悶えさせなきゃいけないのに。
 そしてヱブは今迄見た事が無い笑顔を浮かべて深く
唇を重ねてくる。男としての余裕?だとしても別に悔
しくは無い。こいつが頼りになるなら僕が甘える様に
なれば良い。それだけの事。まあ、当分の間色々教え
込むまで完全に主導権を渡すつもりは無いけど。
 「俺、兄ちゃんが相手で良かった」
 「男同士だったけど、良かったんか?」
 「兄ちゃんだから良かったの。他のオスが相手って、
俺考えたくない」
 一寸すねた横顔を見てそういえば、とふと思いあた
る。こいつは、僕が言うのもなんだけど男相手に良く
もてる。ヒト・ケモノビト問わず年上にもてる。但し、
受身役として。
 こいつもオトコノコだしな。いきなりの初体験で受
身をさせられそうになったらそりゃ嫌だろう。そう言
う意味では僕を抱く事でオスにも男にも目覚めたとい
うのはまだ良い結果だったのかも知れない。
 「兄ちゃん、出すよ」
 「ああ」
 腸内でヱブのペニスがヒクッと動いて二回目、精液
の射出が始まった。腸がミシッと液体に満たされて拡
がってゆくのが判る。
 「あったけぇ」
 「兄ちゃん、よく締まってる」
 「後でお前も締めるんだぞ?」
 「兄ちゃん、早くイっちゃうから締めない方が良い
んじゃない?」
 「のやろ。ヒトを舐めるんじゃねぇぞ」
 浣腸で思い切り泣かせてやるからな、と心の奥底で
毒づいて射精をじっくり楽しむ。
 不意に、耳に湿り気を感じた。
 ヱブが僕の耳を丸ごとくわえ込んで愛撫していた。
多分ヱブの舌の感触を耳で感じるのは初めてだ。触る
か触らないかの位置で留められた歯の感触も新鮮で、
気持ち良い。
 首筋に手を交わして、息遣いで促す。ややあって僕
の口元に近づくヱブの耳。耳の縁をゆっくり加えゆき、
時々舐めてやる。毛並みの奥で濡れた汗の味にふと酔
ってしまいそうになる。
 そして、耳元に息遣いに紛らわせてふっと吹き込む
言葉。
 その言葉と同時に、一番大きい発射が僕の腸壁を打
った。
 「………兄ちゃん、それ反則」
 「年の功年の功」
 「一歳だけでしょ」
 返事の代わりにまだ刈り込んでいない叢を指で梳い
てやる。夜はこれから。言葉の重みを一緒に感じる時
間も、まだこれからタップリ。
                (了)

   2007.2.5脱稿 2007.4.30up

雑誌投稿を想定して書いた一篇。
獣人もの初挑戦。ネコ耳にはならない様配慮した。