帳尻あわせ

 ゲーセンにいくんは大体週末と決まってる。
これはお兄が暇な時間でもあるから。お母んが
無茶苦茶心配性で、たかがゲーセン行くんでも
泣きそうになるんやから仕方ない。それに、お
兄やったらなんやかんや教えてくれるし、お互
い気ィ楽やし。
 家に大概のソフトあんねんから別にゲーセン
行かんでもええねんけどや、お兄と二人っきり
で部屋でピコパコっていうんもなぁ…ゲーム以
外の不健全な事もしたくなって、その後なんも
する気なくなってまうから最近はジシュクして
る。お兄は高校受験前やし僕かて私学受験前。
兄弟揃って落ちましたなんて洒落ならへんもん。

 「遅い!小坊が何ちんたらしてんねん」
 「しゃあないやん。先生に捕まっててんから」
 「あっ子ちゃんか?」
 「うん。あっ子先生」
 「俺もよう捕まったわ。で、今日は理科室か?」
 「家庭科準備室やった。生徒にゴキブリ取り
させるンは止めて欲しいわ」
 「あの先生虫苦手やしなぁ」
 兄弟揃って同じ担任やったから出来る会話や
なー。
 で、ほてほて歩いていつものゲーセン前。
 「お兄、僕なぁ」
 「金ならいつも通りな」
 「話し早すぎ」
 「お前は我慢も覚えとかんといかんしな」
 少し間を置いて。
 「そうせんと俺ばっかしんどいねんから。あ
っちの方だけ早く覚えてどないすんねん、今か
ら」
 耳を真っ赤にして、ずんずん先に行くお兄。
 そして、その背中をみながらついにやけてる、
僕。

 二人の間で決めたルール。お兄から100円借り
るごとに後でキス一回で返済。但し、キスの場
所は口とは限らない。で、限度額は一度ゲーセ
ン行くごとに1000円。1000円以上借りて凄い事
で返したいなー、とチラッとは思うけど、お兄
の財布が大丈夫違うしなー。
 
 で、結局その日もきっちり1000円借りてしま
って…こんなんやったら家でゲームしてるんと
変わらんよなぁ(苦笑)

2004.2.2脱稿  2007.3.15up

かつて印刷物として発行したもの。
初出時には改行を最低限に抑え
かなり詰まった状態だった。
印刷スペースありきから書き始めた話。